手首のスナップ
私たちは、「手首のスナップをきかせる」という言葉を耳にします。これについてドラムの業界において、大きな誤解が存在しています。現在一般に広まっている奏法では、 スピードの速いストロークのとき、 手首から先だけを動かそうとすることが多いのです。 体感していただければすぐわかることですが、手首の屈曲・伸展だけの運動では、スピードは上がりにくく、危険も潜んでいます。 手首の丈夫な方は、それでいいのかもしれませんが、人の動きの原則を考えると、リスクが大きくな ると言わざるをえません 。 ましてやヒット時にスティックをぎゅっと握りこんでしまっているときには、指を動かす筋肉の端である腱に負担がかかります。ドラムがきっかけでなる腱鞘炎は、これが原因である可能性が高いのです。これを避けるには、しゃっ骨を軸にしたとう骨の回転運動がよいのです。当ドラムレッスンでは、この回転運動を取り入れた高速シングルストロークを紹介していますが、この運動は、リラックスしながらスピードを上げるのにとても都合がいい上に、安全に取り組めるのです。トニーウイリアムスやデニスチェンバースなどのは、この動きを利用して前腕部を回外させて、ストロークを行っています。手首から先だけを屈曲伸展させる運動としゃっ骨を軸にしたとう骨の回転運動は、プロ・アマを問わずほとんどのドラマーにとって、見た目に区別がつきにくい運動なのです。プロの方で、ご自分のストロークを「手首が上下運動している」とレクチャーしていたとしても、とう骨が動いていれば、回転運動を利用していることになるのです。プロドラマーであっても、言葉と動きが一致していない人は多いのです。このように書くと驚かれる方もいらっしゃるでしょう。しかしプロドラマーは動きを演奏に利用することには長けていても、動きそのものを、するどく観察し解説できるかどうかは、別問題なのです。ここを見抜かなければいけません。人の運動の状態を見抜く目というものは、かなりの個人差があり、自分の思い込みに左右されやすいのです。 手首のスナップをきかせるということの正しい理解は、手首から先だけが屈曲・伸展するということではありません。手首よりももっと胴体に近い腕が動いた結果として、最後の一押しとして利用するものであるのです。人間の体の運動においては、屈伸ではなく、回転が主体であり、手首といった腕の末端より、体幹部が先に動くということが、とても重要なのです。