ここでは、フリーグリップについて、理論の解説をしていこうと思います。
まず、大まかな論点をあげておきますね。
? グリップするとはどういうことか?
? なぜ、握ってしまうのか?
? 握ることを避けるには、どうしたらいいのか?
? ?ができてはじめて、フリーグリップの形を検討することができます。
これらをガイドラインにして、ドラマーのグリップとしての理想であるフリーグリップを考えていきましょう。
? グリップするとはどういうことか?
ドラマーにとって、スティックをどう扱うかということは、大変重要なポイントです。いわば、ヒットの瞬間に握り込んでしまうために、さまざまな弊害にぶつかってしまうのです。しかしながら、この点はあまり深く論じられておりません。
握りこむことが、マメができてしまったり、前腕部に無用な疲れを呼び込んだり、腱鞘炎などの原因のひとつにもなっているとおもいます。
フリーグリップを正しくマスターできれば、これらの問題はなくなっていくでしょう。
では、グリップするとはどういうことでしょうか?
それは、ひらたくいうと
?握る?
ということです。
ドラマーとして、スティックを扱うとき、いついかなるときも完全に握るということから解放されるということはありません。
? なぜ握ってしまうのか?
では、私たちがドラムを叩くとき、なぜスティックを握ってしまうのでしょうか?
実はこれには、リバウンドのコントロールが深く関わっています。
リバウンドとはスティックの跳ね返りのことです。
ヒットの瞬間に握ってしまうのは、スティックが飛んでいかないようにするのがほとんどです。もしスティックから手を離せば、ヒットの後はどこかに飛んで行ってしまうでしょう。
ですから、それを避けるために、握るという行為でスティックの動きを止めることになります。
これは、当たり前のこととして、私たちは受け入れています。
しかし大抵の場合、それを容認すると、指にムダな力みを入れてしまいます。
握りすぎるということは、必要以上に指の力でリバウンドを吸収しているということになります。
ここから逃れなければ、フリーグリップの習得は永遠に迷宮入りしてしまうのです。
? 握ることを避けるには、どうしたらいいのか?
では、ヒットの瞬間に握らないようにするには、どうしたらいいのかを考えていきましょう。
ここでまず、フリーグリップという言葉からその意味を考えてみましょう。
“グリップ=握る”ということと“フリー=自由”ということから考えて、
フリーグリップ=「握ることから自由になる」
と定義します。
つまり、フリーグリップをマスターするために、一番厄介な、握るという感覚からいかに自由になるか。
ここが大切な部分です。
そしてそれを考えるには、握るということを、別な観点から考える必要があります。それは、
リバウンドを指で吸収している
ということなのです。
手のひらは、ほとんどが指でできていますので、手のひらでスティックのリバウンドを吸収するということは、指で吸収しているということになります。
ヒットの瞬間に握らないようにするためには、このリバウンドを指以外の何かで吸収できればいいわけです。
では、その何かとは?
実はそれは
腕
なのです。
つまり、リバウンドを腕で拾う必要があります。
これができると、ヒットの瞬間に、握るどころか、挟むことさえしないでいで音を出すということができるようになります。(ヒットの直前からヒットしたあとしばらくの間です)?
「ほんとうにそんなことができるの?」とおもわれるかもしれません。
しかし、考えてもみてください。
ヒットの直後のリバウンドは腕でひろうわけですから、それが完全になされれば、指はリバウンドをひろうためにスティックを挟む必要はなくなりますよね?
ヒットの瞬間に指でスティックを扱わないわけですから、その指は完全に自由(フリー)になりますよね?
それは、ヒットの瞬間に指がいかなる形をとることも可能であるということを意味します。
ほんの少しでも、指でスティックを挟んだ場合は、そこにはわずかながら指の力が発生してしまいます。
それでは、完全に指の力を抜くことができなくなります。
一見不可能に思えるこの方法も、ある一定のバランスをとれれば、可能になります。
ヒットの瞬間に握るどころか、挟むことさえしないで、ストロークを続けるという感覚。
この感覚がつかめてはじめて、フリーグリップの土台の部分が感覚でわかります。
フリーグリップをマスターするためには、必ずこの感覚が必要になります。
この感覚をつかんでいないなら、フリーグリップは形だけに終わってしまいます。
逆に言うと、この感覚をつかんでしまえば、形にこだわらずにどんどん応用がきいてくるようになります。
グリップのことを指のみで考えていると、フリーグリップは決してできません。理解すら不可能になってしまいます。大切なことは、グリップといえども、腕の動きとともに考える必要があるということです。
? ?ができてはじめてフリーグリップの形を検討することができます。
フリーグリップについて、いろいろ指導してきて感じたことは、形から入らないほうがいいということです。
なぜならば、形を優先することでできた気になってしまい、本当に重要なリバウンドを腕で扱うという感覚をつかめなくなってしまうからです。
これは、脱力を指導する際に当ドラムメソッドが気をつけていることと同じですが、形よりも脱力のほうが優先順位は高いという法則にのっとったものです。
ですから、必ず?ができてからフリーグリップの形の検討に入ってください。
フリーグリップの形は実にさまざまです。一定の形を決めるということができません。
しかし、ガイドラインはあります。
それは、手の甲が上になるとき、指が伸びていくような形になり、親指の爪が上になるようなときには指が曲がるような形をとりやすい。
ということです。
しかし、これはあくまでも重力との関係で考えた静止状態での形のガイドラインです。
実際の演奏中の指は腕に動かされて、重力以外の遠心力や相互作用トルクといったさまざまな運動エネルギーによって形づくられています。
次回は静止状態と運動状態の違いによって少し形が変わることを説明いたします。